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写真家と神

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今日、写真家の方に写真を撮ってもらった。

彼は長いことシャーマニズムの世界を撮り続けていて、今は、シャーマン的な身体感覚/感受性を持っていそうな女性が日常の中でそれをどのように処しているのかにも興味を持っており、そうした女性たちの撮影を始めたばかりなのだそうだ。

その被写体に選ばれたのが光栄なことなのかどうか、ともかく、私が日常の中で行なっている「あること」を撮影するために、わざわざ私が元居たシェアハウス「まれびとハウス」に来て下さって、その女子部屋で朝6時から撮影はスタートした。

詳しい内容は省くが、彼にシャッターを切られている間はとんでもなく恍惚とした満ちたりた時間で、彼にとっても、その後の言葉がお世辞でないとすれば、良い時間を過ごしてもらえたようだった。撮影が終わり、服を来て、コーヒーを飲み、会社に向かい、仕事をしている間にも、服のすき間に恍惚の余韻はずっと留まり続け、一日中絶え間なくシャッターを切られ続けているような気分だった。

私は常々、写真家というのは一体どういう人種なのだろう、と不思議に思っていたけど、撮影後のコーヒーの時間に、彼のような実力のある写真家の方が「どうやって」写真を撮るのかを訊くのはとても興味深かった。

彼は話してくれた。

「4分の1は撮りたいショットを捕るためにシャッターを切っているが、4分の3は空シャッターです。つまり、相手を乗せるリズムを空間に作り出すための道具としてシャッター音を鳴らしているのです。」

彼にとって、シャッター音は声なのだ。

シャッター音で相手を今の行為に集中させたり、没頭させたり、あるいは気を削いだり、もしくは自分に引きこむ。

催眠術師が身体動作と声で相手を自在にトランスに入れたり、動揺させたり、あるいは覚醒させたり、自分と同調させるのと同じく、彼も身体動作とシャッター音で相手を変容させているのだった。

シャッターは文字通り「shutter」で、開け閉めすることで空間を変調させる。催眠術師が声と動作でそれを行うように、相手と自分をつなぐ。もしくは遮断する。断続のリズムを刻むことで相手の「あり方」を狂わせる。自分の身体の一部でそれを行うかのように。

私は彼に、被写体を撮っている最中、被写体が感じている身体感覚や感情に、彼も同調して感じているのかと質問した。

「昔、台湾のアボリジニ(原住民)のおばあさんを撮りに行ったことがあった。その民族は、伝統的に額と顎に刺青を彫り、年輪のように加齢とともに刺青を増やしてゆく風習を持っていたが、しかし日本の統治下に置かれたおかげでその風習が廃れてしまった民族で、そのおばあさんは成育途中にその風習が廃止されたおかげで、額にだけ刺青が残っていた。そのおばあさんの顔をずっと撮り続けている時、とある瞬間、なぜだか「自分の後頭部におばあさんの目が現れて、自分の目を通しておばあさんがカメラのレンズを覗いて自分自身を見ている」というビジョンが頭にフラッシュバックし、驚いたその次の瞬間、おばあさんが「ああ、あんたの見ているのはこれかい、よく見えるよ」と言って、僕は腰を抜かしてその場にへたりそうになった。

その瞬間にシャッターを切った写真のおばあさんの眼の表情は、明らかにそれ以外の無数のショットからは逸脱していた。だから、眼球を乗っ取られる、ということはもしかしたらあり得るのかもしれないね。」

シャーマンを外側からただ視る、というのはきっと、不可能だろう。彼のような写真家にとってカメラは媒介であり、そこで起きているのはカメラを使った同調なのだ。彼は自分自身を壊すことはなさそうだったが、「視る」という行為においては彼は自分で自分を壊しているのではないかと思った。

撮られている間、私が彼を見ることはほとんど無かったが、ほんの束の間、行為を中断して彼を見た瞬間、カメラを構えるのをやめた彼の顔はそこにいる誰の顔でもなく、一瞬私はその人が誰なのか分からなくなった。

30代後半だったはずの彼の顔は、知らない20歳の青年の顔をしていて、それを見た私はなぜか次の瞬間

「これは私の顔ではないか」

とぼんやりと感じていた。

 

神が降りてくる瞬間というのは、どうやら、こういうものらしい。

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写真家と神」への5件のフィードバック

  1. シャッター音の75%は撮るためでなく、被写体を壊す「声」。背筋がゾクッとする世界観。プロはすごい。写真家と神 | None. http://t.co/oWMMTGsM

  2. そういえば、この前の会合で一緒だった写真家の方に写真を撮っていただいたことをブログに書きましたよ。http://t.co/6GC9itWo @yohei917 @RUMITANizaki @sugar_su @cosphere

  3. […] 元記事:写真家と神 僕は写真を撮るのが好きだ。 でも、この記事にあるようにプロ写真家が常に何を考えて撮影しているのかは興味ある。 […]

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