相手のあれなら食べれるわ、


12月某日

好きな男は私が恋愛的にも性愛的にも好きじゃないけど、そうじゃない別の角度から好きなのだということを理解してくれないので悲しい。じゃあなんだ、と問われれば私もどう答えていいかわからないので当然だろうと思う。前回の日記で、自分がそうなれないという憧れ、ではないかと書いたが、それ以外にも何かありそうな気がする。

原稿の再校ゲラが戻る。直すところがたくさん。編集者さんにはまた泣いてもらうことになるけど、もう一度物語に向き合う必要がありそう。没頭する対象があるということに安心する。この2ヶ月間、人と少し関わりすぎた。再び、深い穴に潜ってゆくような気持ち。冥界のような暗くて澄んでいてひっそりとした場所、私以外には誰もいない場所に、一歩ずつ足を踏み入れて帰ってゆく。ここでは外界で起きていることは何も関係がない。四方を囲む暗い壁と、私だけしかない。自分の居場所はここだと思う。

小説ん中に、たった一人で20年間ただひたすら漫画を描いているプロ漫画家の登場人物がいるのだが、彼に「暗闇に光を当ててはいけません」「光のあたらない暗闇を抱えていることも、人間は必要です」と言わせた時にハッとした、多分、自分が一番感じていることを人に言わせた、という感覚があった。小説を書いていて嬉しいのはこういう時、自分の言葉なのか誰の言葉なのかわからない言葉がふと他人の口を借りて降りてくる。全編そうやって書ければ嬉しいものの、まだそこまでたどり着いていないのが骨折りどころ。
彼の言う通り、私とか、数多くの人にとっては暗闇に潜る時間が必要で、無理に暗闇に光を当てずとも暗闇を描くだけで良いのではないだろうか。
先日開催した「5感で書くクリエイティブライティング講座」の中で、自分の辛かった思い出や、しんどい気持ちを現実の出来事として描くのはあまりに苦しくて書けません、と言った受講者の方がいた。その方は最終的に、その感情を自分のものではない別の誰かの物語として描きなおすことで、短い時間の中でとても素晴らしい短編小説を書き上げた。直視することも、分解することも、解明することも、「わかってよ」と叩きつける必要もない、ただ、光のあたらない暗闇の中で、そっと何か、描けるものを描けばいいのだ。自分でも見ることのできない何かを、その筆致が、暗闇の中、盲目のままに描いた曲線が、誰かの心を動かす作品に仕上がることはきっとある。書き手は自分の書いたものの正体を掴むことはない。けど、それでいい。

今回の講座ももんのすごく熱く、全員が書きたいもの、書けるものを秘めていて、かつ技術もあり、参加者同士の学び合いで場が成立しているような感じ。私が教えることは何もないな、と思わされるような場だった。この講座をやっていると、時々「もんのすんげえの」が出てくることがあり(受講者の方や作品のことです)、その「すんげえの」を見たくて開催している気がする。自分が文章を書くのも好きだが、それと同じくらいかそれ以上に「書き手」という存在が好きで、目の前で「書き手」が生まれる瞬間を見たくてこれをやっている。やり終わった後は必ず2日間寝込むし、コスト的には本当にとんとんなんだけど・・・でもありがたいことにキャンセル待ちが5名も出て、1月の開催も決まった。早く次をやりたい。楽しい。
何も考えずに書くことの重要性みたいなこと、説いてる私がいつもそれができなくなりがちなので、講座をやりながら、受講生を鏡に自分がリハビリをしている気持ち。

12月某日
怒っている人って全然怖くなくてむしろ滑稽だ。怒っている人を見て、怒るのやめよう、って思った。

12月某日
同居人の恋人がしばらく上京するので江戸川橋に仮宿を求めて移動。
私は対人関係の許容範囲が非常に狭く、一緒に暮らせる相手なんて相当に限られると思うのだが、現在の同居人に関しては住み始めて2日目くらいに
「あ、私、彼女のうんこなら食べれるわ」と直感し、そう思えるのならきっと大丈夫なんだろうと思い、彼女の家に転がり込むことを決意したのだった。

人の好き嫌いが激しい分、反対に「あ、この人は私を理解してくれそう」と思った人にはついつい全体重をかけて理解を求めてしまう。それがいけないのだなと常々反省はしているのだけど、しかし彼女に関しては私のことを「理解してくれそう」とは全く思えず、しかし一緒にいて気が楽だし、「理解してほしい!」と爆発的に思ったりもしない。
異性でそう思える相手が現れたら、結婚しても良いのかもしれないな。

そういえばすごく昔に付き合った彼に、付き合って3ヶ月めくらいに「みゆきちゃんのうんこなら俺、食べれる」と言われたことがあり、その時は彼の言わんとすることが一切、わからず、さておき大変嬉しく、あれはこれまでの人生を振り返ってもベスト・オブ・ベストの愛の言葉だったなと思うのだが、長い年月を経て自分が同じように思える相手が現れるとは思わなかった。相手、女だけど。


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