レビュー:映画「チェルノブイリ・ハート」


映画「チェルノブイリ・ハート」を見た。
きつかった。
「10万年後の安全」よりも10倍くらいきつい。
なぜかというと、これがホラー映画でもパニック映画でもなく、
本物の、今、この瞬間に、同じ地球上のベラルーシで起こっている事を写したドキュメンタリーで、
しかも、25年後の福島に、確実に起きるであろうことだからだ。
「ハイ、あなたたちの未来はこんなかんじですよ」って、
こんなにも恐ろしい、血肉色した鮮やかすぎる未来を目の前に突きつけられて、
平気でいられる人がどれだけいるんだろう。
このドキュメンタリーは、国土の97%が放射能汚染地域であるベラルーシで、放射能被害にあった子供たちの様子を写したもの。
なので、映画の舞台はほぼすべて、病院である。
監督は、甲状腺ガンの治療現場から始まり、精神病院や小児病棟を次々と回ってゆく。
私は、放射能が引き起こす病気は、甲状腺ガンと白血病くらいしか知らなかった。
けれど、その認識がずぶずぶに甘いことを、この映画で思い知らされた。
原発から80km圏内で、事故後に生まれた子どもの多くが、先天的に脳性麻痺や脊髄損傷、水頭症、悪性腫瘍を患っている。
悪性腫瘍で、自分の身体と同じくらいに、ぱんぱんに膨れあがったお腹をひきずって歩く子ども、
足と手が壊死して、薬を塗ると痛みで泣き叫ぶ子ども、
水頭症で、あたまなのか顔なのか分からないほど頭部が膨らんだ子ども、
生まれた時から発育障害で、4歳なのに4ヶ月の赤ちゃんくらいの体躯しかない子ども。
そんな子供たちで、施設はあふれている。
変形し、皮膚の色が変わった患部が、舐めるようになんどもなんどもスクリーンに大写しにされる。
その度に、自分の認識の甘さを思い知らされる。
それだけでは終わらない。
一番ショックな事実を突きつけるためか、作中になんどもなんども登場するのは、
「遺棄児童院」
つまり、障害を抱えて生まれ、親が治療費を払えずに捨てられた子供たちの集まる施設が、チェルノブイリ近郊にはいくつもあるのだ。
そりゃそうだよ、事故のせいで住んでいた家と仕事を失って、
生まれてきた子どもは月に何百ドルとかかる重度の障害を抱え、治る見込みも国の補助もなく、月収100ドル以下で、
それでも育て続けるなんて、誰が可能だと思う?
親のせいじゃない。これは、国が生んだ捨て子だ。
生まれる前から、国によって、原発によって未来を破棄された子ども。
これが、25年後のフクシマに起こりえないなんて、誰が言えるだろう。
施設の人の、
「この子の親は見つかっていません。治療法もありません。
この子の未来は誰にも分かりません。」
という言葉が突き刺さる。
さらにショッキングな事実は続く。
原発から80kmのゴメリ市の産院での、健常児の出生率は15%〜20%
これ聞いたとき、数字が逆なのかと思った。
てっきり翻訳ミスかと。
そうじゃなかった。
障害児の出生率が15%〜20% ではなく。
健常児の出生率が15%〜20%。
信じられる?
多くの子どもは水頭症、脳性麻痺など先天性の障害を持って生まれてくる。
アメリカでは、水頭症の乳児は生まれた時に注射器で水を抜いてもらえるけれど、ここはベラルーシ。医者の月収が100ドル以下の国で、そんな高額の手術をほぼ全員の水頭症児に施すなんて不可能だ。
原発から80km圏内って言ったら、フクシマでいうとこんな感じ(googleMAP)
北茨城やいわきももちろん、宮城の白石、那須塩原や会津若松ももう少しで届きそう。
この範囲の産院で、健常児の出生率がたったの15%。
ベラルーシで起きていることが、こんなにも克明に分かっているにも関わらず、
なんで国のトップは、フクシマの子供たちを避難させないんだろう?
何が起こるか分からないから、じゃなく
何が起こるか、こんなにも、こんなにも鮮明に分かっているのに、
なんで、なんでほっとくの?
見えてるじゃん、もう見えてるじゃん。
この映像は、CGでも、ホラー映画の特殊メイクでもなんでもないよ。
アメリカの、映像技術を駆使したバーチャル・リアリティーでもないよ。
精神病院に詰め込まれた子どもとか、頭なのか顔なのかもうよくわかんなくなってる水頭症児とか、足が枯れ木みたいになった、ぼろぼろの子どもとか、
こんなにリアルに見えてるのに、なんでそれでも安心だとか、言えるわけ?
第一・第二原発から、広島原爆の136個分のセシウムが放出されたって発表しときながら、なんでそれでも
「チェルノブイリとフクシマは違う」って言えるの?
今、フクシマにいる子供たちと、これから生まれてくる子供たちの未来がわかっていて、なんでそれでも避難させずに東電を救済するのか、わからないよ。
今、東電ではなくて、フクシマの子供たちと若者を避難させるほうが、国の生存戦略上有効だって、なんで政府の偉い人達がわからないのかも、全く理解出来ないよ。
もしこのまま、避難措置も取らず、十分な補償もせずに、原発から80km圏内の人たちをほったらかしにしたとしたら、
きっと、25年後、これと同じ映像を撮りに、各国からフクシマに取材クルーが押し寄せるだろう。
きっとその時、彼らは思うはずだ。
「今から25年前にも、これと同じ映像を撮ったフィルムがあったのに、なんで日本は学ばなかったんだ?」って。
そうなってしまいそうな事が、私は悲しい。
このフィルムの中の映像と地続きの現実は、もう始まってる。
今の放射線量が◯ミリシーベルトとか、セシウムが☓ベクレル検出されたとか、
まったくリアルでない、数字の情報ばかりが流れてきて、
どれが本当の情報かも分からず、ぼうっとtwitterとネットニュースを眺めている今、
遠く離れた国の映像なのに、
何年も先の未来予測でしかないはずのに、
一番リアルな、フクシマに関する情報だと、私は思う。
明日は水曜でレディースデーだし、あさっては1日で映画の日なので、
何見ようかと迷っている方はぜひ見てください。
1時間でサックリ見れます。でも、ショックはずっと続きます。
ショックどころかこの現実は25年後まで続きます。
それが分かってしまう、本当に苦しい、でも、“分からせてくれる”映画です。
こちらも合わせてどうぞ:レビュー:映画「10万年後の安全」

参考:ベラルーシの若者・児童の、甲状腺ガンについての報告



紹介 author-img 著者

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

コメント (2)

  • 返信

    2011年8月30日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    とても重要な事に気づかせていただきました。
    None さんありがとう!
    国会議員さんや東電の幹部さんたちって、
    知ってるのかな?この映画のこと。
    このままじゃ、本当にやばい。
    まずは、このまま行けば、これから確実に起こるであろう
    事実を受け止めるために、この映画見にいきたいと思います。
    ワーナーマイカルとかではやってないかな。。。調べます。
    で、感想など自分のブログやFacebookなんかで伝えていけたらと思います。

  • 返信

    2011年9月8日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    こんにちは、ブログを読んで下さり、またご指摘くださり、ありがとうございます。
    全くご指摘のとおりです。
    私もそれは認識していたのですが、どうしても、チェルノブイリからちょうど25年後にフクシマの事故が起きたという、その25という数字のインパクト、そして、ドキュメンタリーが撮られた2002年から今日まで、まぎれもなく何一つ変わらない状況がチェルノブイリで続いているという事実のインパクトが強すぎて、その事をクローズアップしたくなってしまったんですね。
    そうした背景でこういった表現をしてしまった、ということをご承知置きいただければと思います。
    > 瑣末なことで申し訳ないですが1点指摘させてください。
    > 事故と映像の期間は、25年ではなく、
    > 16年だと思います。
    > 1986年事故→2002年撮影なので。。

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