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文章のクセ、コミュニケーションのクセ


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文章教室を開講して2ヶ月。

今のところ、週に3回のペースでお申し込みをいただいている。

思ったよりもいろいろな層の方に受講していただいていて、ハローワークで職を探している人から、大きな企業の社長さんまでいろいろだ。

やっていて思うこと。それは、

“文章の悩みというのはそれ単体では存在せず、その人の人生の悩みと直結している”

ということだ。

文章は、いうまでもなく、書き手自身の人格と直結している。

その人の見ている世界、その人の暮らし、今の生活状況、コミュニケーションの仕方。

人格だけではない。対面で坐した時の、その人の喋り方、姿勢、声のトーン、話すときの文法の癖。それらはすべてリンクしている。

たとえば、読み手にとって共有されるべき情報をはじめから共有せずに、いきなり前提をすっぽかして書き始めてしまうような人がいる。そういう人は、会話においても、他者の視点が抜けていることが多い。

また、主題がはっきりせずに、だらだらと際限なく長い文章を書いてしまう人。そういう人は会話においても、いつまでたっても述語が表れずに区切りなく話し続けてしまうクセを持っている。

このように、その人が持っている文章の癖や、うまく書けなくて悩んでいる部分というのは、そのまま、その人の生き方のクセや、もしくは他人とのコミュニケーションにおける、つまづきの表れであることがとても多い。

本当は、自分に自信が持てない、だったり。

部下に相談したいのに、できない、だったり。

やりたいことがなくて焦っている、だったり。

その人の抱える悩みが、紙に印刷された、文字列の上にそのまま透けて見えることがある。

(もちろん、私にもある。私の場合、自分が言っていることが相手に伝わっているか、どうしても自信が持てないので、ついつい蛇足的にダラダラ言葉を重ねてしまう。その結果、余計なことを言ってしまう事が多い。原稿を書く時には、その事についてかなり注意するようにしている。)

 

とあるクライアントで、初対面の第一声からタメ口で話しかけてくる40代の男性がいた。失業中で、ハローワークに出すエントリーシートの書き方を教えて欲しいと言う依頼だった。

最初は「(自分よりも)若い女だと思って、舐めてるのかなあ」と思いながら講義を行っていたが、提出された文章を読み、話をするうち、彼の「他人全般に対する舐め」が、彼の人生におけるつまずきを作り出しているんだなぁということがよくわかった。

彼の文章は、いうまでもなく、他人に甘えていた。内容が甘えているということではなく、書き方自体が甘えている。べちゃべちゃとしていて、他人と距離が取れていない文章。“相手はもちろん、自分を理解してくれている”という前提で書かれているから、当然、読み手は困惑する。まるでドアもない家を、買うとも言っていないのに押し売りされているみたいな気分になるのだ。そのことを、気づいてもらう必要があった。

このように、 話し方の癖、文章の癖と、その人のコミュニケーションの癖というのは直結していて、それらを総合的に見てゆくと、この人が一体何につまずいているのか、というのがおのずと見えて来る。

 

私はカウンセラーではないから、その人のつまずき全部を取り除くことはできない。また、一回の講義で、コミュニケーションの癖を直せと言ってもどだい無理な話だし、むしろ癖なんかあって当然で、それがその人の個性でもあるから、全部を直す必要もない。また、たとえ文章が下手でも、不思議と相手に伝わる文章というのもあるから、「てにをは」などの文法をびっちり矯正すればいいというわけでもない(エントリーシートなどの場合は別だけど)。

ただ、「他人に伝わる文章を書きたい」と願う時、自分のコミュニケーション上のクセを知っておく、というのは、かなり有効だ。

だから、私が講座の中で行っているのは、提出された文章と、目の前にいる人のすべてから、その人の、文章を書く上でのつまずきに直結している部分を分析して、 それをその人自身に気づいてもらえるよう、促すことである。

 

時々、必要だと感じたら、クライアントに発声練習をしてもらうことがある。

発声して、自分の声を聞く事で、これまでどれだけ自分の声が閉じていて、相手に届かないものであったか、また、自分の話し方の癖について、気づく事があるからだ。

たぶん、やらされている本人は最初は恥ずかしいと思うが、講師としてはこれがいちばん楽しい。

 

声を出してもらううち、ふいに、その人の頭の後ろから、爽やかな風が吹き抜ける瞬間がある。

声がお腹の底から通ってくる感じ。自分の声を聞きつつ、相手に届けるために、迷いなく声を出せている瞬間。

そんな時のクライアントの顔は、さえざえとして、緊張や不安のない、落ち着いた表情をしている。

その時の感じを思い出しながら文章が書けたら、”じぶんらしい表現”になるのではないかと思う。

 

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投稿者:

miyuki.ono1228

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

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