去年の今頃無内定だった自分が、今年無内定の学生におすすめしたい本三冊


最近ツイッター上で「無内定の学生たち」の話題を良く見かける。2012年の新卒採用がもう既に始まっている事もあり、2011年卒で内定をもらっていない若者は、やはりこの時期になると就活に疲れ果てているし、院試を考えるには遅すぎるしで、途方に暮れている時期だろうと思う。
なんでそう思うかというと、自分も去年そうだったから。
自分の場合は、1回目の就職活動時に初めて「パニック障害」の症状が出て、就活を途中で辞めた。もちろんそれだけが内定を取れなかった理由とは限らず、自分の責任ではあるんだけど、慶應義塾大学という、一応高学歴とされる大学なのに、無内定のまま卒業を迎える事になっていて、どうしよう、もうダメだ、とこの世の終わりみたいな気持ちになっていた。パニック障害になったことより、就活という「規格」から外れたことに対する苦しみが大きかった。
■「コミュニケーション能力不足」で落ち込むのは馬鹿らしい
最近では「現代ビジネス」のこの記事のように、内定が取れない学生の最大の原因は「“コミュニケーション能力“が無いからだ」というのが一般的な論調になっているようだ。
この記事の結論はあまりにも陳腐だ。「コミュニケーション能力」の中にはいくつもの分類があって、たとえばノリ良く話す力がないとか、考えを発言するタイミングが上手く掴めないとか、論理立てて説明する力がない、とか、いろんな小分類があると思うんだけど、その中のたった一つが欠けている故に面接などが上手くいかない学生に対して「君はコミュニケーション能力がない」なんて言うのは、一粒が痛んでいるぶどうに対して「これは全部駄目だ」と言って、そのぶどうの育て方を否定するようなもんで、相手としてはここまで育ったものを全部否定されちゃったら今更どうしようも無いし、そんなに自分は他の人と比べてダメなのか、と思って途方に暮れるだけだ。
就職活動が上手く行かない理由は千差万別だろうけど、マスコミなり、就職活動全般なりの論調として、「コミュニケーション能力が無いから君は就職できない」なんていう言説がまかり通っているのはあまりにもくだらなすぎると思う。会社に入ればわかるけど、コミュニケーション力がないけど会社で働いている人なんてゴマンといるし、だからって、そういう人が働くための職種・業種も、同じくらいたくさん存在する。
だから、そんなことで落ち込む必要はまったくないんだけど、就職の目処が立たないまま卒業を迎えると思うと、不安だったり、落ち込んだり、周囲からのプレッシャーを受けてストレスフルな毎日を送っている無内定の学生はきっと多いだろう。
なので、今日は、無内定だった自分が去年の今頃に読んで励まされた本、無内定でこれからどうしようか途方に暮れている学生に読んでもらいたい本を紹介する。
遊牧夫婦 (近藤雄生著、ミシマ社)

東大院卒業後、定職につかず、夫婦で5年間の海外旅行へ—そんなイレギュラーなシチュエーションながらも、ライターである近藤雄生さんが、海外で定住・就職を繰り返しながら旅を続けた様子を描いたノンフィクションである。
近藤さんは、東大の工学部卒で、宇宙飛行士を何人も輩出するようなエリート学科に在籍していたが、自身が本の中で書いている通り、「吃音」を気にして、自分には普通の就職は無理だ、と思っていたらしい。旅の間に偶然、吃音は解消されたそうだが、当時はそれはそれは大きい悩みの種だった。近藤さんは「吃音」だったけど、私の場合は「パニック障害」で、もちろんこんなふうに顕在化した形じゃなくても、何かしら「自分はこれがあるから他の人みたいに就職するのは無理なんじゃないか」と思っている人、きっといると思う。例えば「飲み会とか苦手だしノリ悪いから就職とか無理」「事務作業とかどう考えても向いてない」とか。でも、私自身、会社に入って気づいたけど、けっこう皆、ダメな所あるんだよね。私がいた会社では、毎日遅刻してくる人もいたし、絶対に締切りが守れない人とか、電話に出るのが苦手な人もいた。でもけっこう、お互いがそういうところをカバーしあって働けば意外と上手くいくんだなぁ、というのを感じた。じゃあ就活で無理やり浮き彫りにされて取り沙汰される「自分の弱み」とかって、実は大したこと無いんじゃないの、と就職した後で初めて感じた。
そうやって、あ、わりと大丈夫だな、と思えることが一番だけど、吃音とかパニック障害とか、どうしても面接をくぐり抜けられないようなクリティカルなコンプレックスがある場合は、思い切って他の道を探してみてはどうだろうか。近藤さんは、会社勤めという道以外を探したとき、ライターとしての道を探して5年もの長期旅行に出た。それと同じで、仕事は決して就職活動で見つかるとは限らない。また、近藤さんのインタビューにも出てくるが、日本じゃなくても、就職の可能性、自分で稼ぐ可能性は大いにある。あわせてこのブログも読んでみると面白い。海外で職を得ることは、もちろんエネルギーがいるが、自分が明らかに苦手とする就職活動にあまりにも多すぎるエネルギーをつぎ込んで疲弊しきってる人には、もしかしたらオススメかもしれない。この本を読むと、「まあ、日本で就職できなくてもなんとかなる」という前向きなエネルギーを得ることができるので、オススメだ。
フラジャイル 弱さからの出発 (ちくま学芸文庫) 松岡正剛著

 
最後に紹介するこの本は、若干思想的なので向き・不向きはあるが、稀有な題材を扱った良書なので就活生以外にもお薦めする。
本書で語られるのは、「弱き者」の文化史である。
遍く文化に偏在する「弱さ」の感覚を掘り下げ、フラジャイル的視点から文学・文化・歴史を読み解く。
この本の中で言われている弱さとは、夜明けの月がまさに朝日にかき消されんとする一瞬に、身を翻して放つ最後の閃きのような、そんな鋭さを持つ「か弱さ」—三島由紀夫の言葉を借りれば「うすばかげろうがてのひらの中で羽ばたくがごとき感覚」—の事である。
神話の王から日本の妖怪まで、ホモセクシュアリティからネオテニーまで、「欠けたもの」—「“壊れ物注意”!の繊細さ」がいかに歴史の文脈の中で、表舞台に現れずとも地下水脈のように揺ぎ無い、強い意味を持っていたかが分かるだろう。古今東西の事象の引用と例示の数が夥しく、辞典的な面白さがある。
競争の中で権力を握り、成功への階段を駆け上がるような分かりやすい「強さ」を求めるのはある意味簡単なことだろう。しかし、そのような強さを求めずとも、元からある性質としての弱さは、その背面に、繊細さ故の強さ、生まれ持った片端の性質ゆえに発する、反逆としての強さをあわせ持つ事を知る。ありきたりな強さを求める事が、愚直すぎてつまらなく感じる程だ。
就職活動のような競争に馴染まない人、自らの弱さを疎んじている人。世界のどこかには、このような弱さを内包する優しさ、か弱いものが放つ鋭さを持って活きる道が残されていることに、本書を読むと気付かされる。必ずしも、就職活動で求められるようなのっぺりとした一枚岩の強さだけが強さではないのだ。
■終わりに
この記事で紹介しているのは具体的対策本ではなく、精神論で自己啓発本みたいなのばかりだから、「そんなもの役に立たない」と思うかもしれない。そういう人は他のブログや記事を参考にして欲しい。けどそういう対策的な本はいくらでも本屋の就職関連コーナーに並んでるし、無内定の人はもうとっくにそんな本は参考にしていると思うので、あえてこういう本をすすめてみた。
なぜなら、ここまで来たら「イイ意味の開き直り」こそがもっとも効力があるからだ。本当に、これほど効力のある態度は他に無い。だって、時代が違うんだもん、全員に内定が出る時代は終わった、むしろそっちのほうがイレギュラーなんだ、と割り切るほうが、次の道も見つけやすい。去年の今頃、無内定だった私の友達も、今は「良い開き直り」を動力にして生き方を選んでいる。「イイ開き直り」をもって、採用活動経由での就職か、院か、もしくは違う方法での就職か、海外を目指すのか、もしくは違う道なのか、を焦らずじっくり考えてみよう。
「次の道は見つかっているが、どうすればいいのかが具体的に分からない」という人であれば、「問題は「タコつぼ」ではなく「タコ」だった!? 「自分経営」入門 (ディスカヴァー携書)」や、山田ズーニーの「おとなの進路教室。」あたりがオススメ。この2冊は「悩みのカタログ」と言った感じで、きっと自分が今抱えている悩みと同じ例が載っているはず。
茂木さんだって「日本の新卒一括採用の習慣は愚かだ」(参照:とぅぎゃったー)と喝破しているくらいだし。本当は開き直りたいんだけど、自分の考えは間違ってるかもしれないと思ってヘコんでる人にとっては、有名人が同じ考えをしてると思ったら元気出るでしょ。ミーハーだけど、まあ、別にいいじゃん。
というわけで、この記事が今、無内定の学生、どう考えても自分は内定が取れそうに無いと思っている就活生にとってささやかでも役に立てば嬉しい。


投稿者:

miyuki.ono1228

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

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