上手い自己紹介


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自己紹介が下手だ。
人前で、自己紹介をしてください、と言われて、上手い自己紹介をできた、と思った事がいっぺんもない。

あるとき、いわゆるリア充っぽい人たちばかりが集まるパーティーに参加したことがある。
その中でホスト役の男の子が「一人30秒で自己紹介をしよう。」と言い出した。
全員に緊張が走った。
私は焦った。ここで何を言うかが今後の人間関係を決めるかもしれない。順番は10番目だった。あと10番のうちに、面白い自己紹介を思いつかなければ。
一人ずつあいさつをしていく。「○○商社の××です」とか、「某有名IT企業の企画部です」とか。
そのうち一人が言った。
普段滑り慣れている滑り台を、何千回目かに滑り降りるような口調で、抑揚も無く彼は矢継ぎ早に言った。
「東大出て電通行って、アメリカでMBA取って今コンサルです」
ロイヤルストレートフラッシュだと本人だけが言っているけれども、その中の一枚にもキングが描かれていないような、そんな自己紹介だった。
その場にますます、あからさまな緊張が走った。男子も女子も、全員の目の色が変わった。すでに自己紹介を終えた人間からは憎悪が、これから自己紹介をする人間からは怯えが立ち上った。

こんな下手な自己紹介は聞いた事がなかった。
今、この場で、彼ぐらいコミュ障な人はいないだろうな。
こんなに彼自身のことを表している、そして、表していない自己紹介は無いな、と思った。

次に、私のとなりにいた友人が、自己紹介をすることになった。
その会場には大きなテレビがあり、お洒落感の演出のためか、会の最中ずっと、古い白黒のアメリカ映画が流れていた。
彼が自己紹介をはじめたとき、画面の中では、マフィアみたいな、いかにもろくでなしっぽい男の人が、バーでタバコを片手にマリリンモンローみたいな女性を口説いていた。

「自己紹介が始まるまで、ずっと、この映画を眺めてたんですけれど」
彼は言った。会場にいる全員が、思わずテレビの画面を見た。
「この主人公は、毎日、ブラブラして、酒を飲んで、タバコを吸って、女の人とセックスしてるんですけど、ぼくも、ちょうど今、そんな生活を送っています」

会場の全員が笑った。MBAの人は、しまった、みたいな顔をしていた。
なにひとつ彼のことは分からないけれど、彼のことをこれ以上言い表している自己紹介はないなと思った。

このMBAの彼も、後者の彼も、私も、根底では同じ欲望を抱いている。
みんな、良く思われたくて必死だ。
働くために、何かを成すために、コミュ力が必要なのではない。
さびしさを紛らわすために、コミュ力が必要なのだ。

私はまだ、上手い自己紹介ができない。それはたぶん、緊張せずに他人と関わることがまだできない証拠だ。
でもそれでもいいと思う。人とうまく関われないさびしさを否定せずに生きてゆきたい。
そしてもし、次に自己紹介をする機会があるなら、その時は後者の彼のように人を笑わせたい。


投稿者:

miyuki.ono1228

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

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