社員と肺魚


社員になった。
1ヶ月半くらい逃げて逃げて逃げ続けて、
最終的に苦肉の策で「バイトがいいです!」と懇願しても「ダメだ」と言われ、
首根っこ捕まえられて、どうにかこうにか収まりのいい形に落ち着かされて入社に至った。
しゃ、
い、
ん。。。
「しゃいん」と平仮名で書くと、なんかの効果音みたいだ。RPGの金属音的な。
この、新卒の2割が就職できなくて、社員になりたくてもなれない人が大勢いるのに、
働くのには社員じゃなきゃ駄目だ、と必ずしも必要ないのに社員契約を結び、
儀礼的に面談をして肩を組んでピースして
「社員になったからにはファミリーだから」と役員の一人に言われ、記念写真を撮った。
私にはもったいなすぎるくらい、いい会社だ。
書面にサインをしながら、「正社員」って、すごい概念だ、としみじみ思った。
今日も明日も同じところにいて、同じ身分が保証されていて、同じように生産し続けている、と周りから確信されていて、
(すくなくとも、最近までの「正社員」の概念はそんなかんじだろう。)
体細胞がごっそり剥がれ落ちて、髪も皮フも内臓も全く新しい別人に生まれ変わっている
5年後も、今と変わらずそこにいる、と思われている人間。
働くのが嫌なんじゃない。
会社は好きだ。
けど、働くという行為に、擬似家族的な縛りがかかるのが嫌なんだ。
この、中も外も、非正規も正規もない時代に、
どこに所属するか、よりも、どんな仕事を創るか、のほうが大事、だと
薄々感じていたからこそ就活もできずにフラフラと蛾がランプに吸い寄せられるように
働く場所を見つけていた私にとって、
仕事の中身は全く変わらないにも関わらず
「社員になれよ」と、このバリバリの所属感を醸し出される
言葉をラバーマスクのように顔に被せられる事は、
まるで、「息を吸う」ことには変わらないのに、
いきなりエラの部分に手をつっこまれて水中からひきずりだされ、
「お前、今日から肺で呼吸せえよ」と言われた
大昔の魚のような、そんな気分になりまして。
シーラカンスも、肺魚に進化したとき、皆が平然と陸に上がっていく中で
一匹くらいは「やだなー」と思っていたんじゃなかろうか。
そう、そんなわけで、
書面にサインした瞬間から、
なぜか気管支をきゅっ、と絞められたような息苦しさがずっと胸のあたりをぐるぐるしていて、
都電荒川線の終電にのって会社から離れれば離れるほど、
その苦しさは増してゆき、
じっとりとコートと襟足の間に冷たい汗が溜まり、
「社員」という字の「ネ」と「土」と「口」と「貝」の間のすき間に
「私」がピーマンの肉詰めのようにぎゅうぎゅうに押し込められて横からプレスされ、
余った肉の断片がむりむりとはみ出して来るようなイメージが頭の中で繰り返し再生されていて、
それを前頭葉で直視しているうちに呼吸がどんでん逆流を起こし、
山手線の中で必死に過呼吸をこらえつつ、這うようにして家に帰った。
まれびとハウスに帰ると、「創職系男子」のうっちーとまっつんが起きていて、
一応、入社した事を報告すると、何事もなかったかの様に流され、
どんな会社か、と聞かれたので
「・・・“社員は家族”みたいな会社」と言うと、
横からフジタクがぼそっと
「・・・家族経営・・・」とつぶやき、
パソコンを開くと、おととい知り合ったジブリの人からメールが来ていて、
「会社の『外』、なんてないですよね。
会社に『入る』『所属する』とかいう発想は、
もうぼくらには必要ない感覚です。
いろんなところに足場を持つ。」
と書かれていた。
呼吸ができるようになった。


投稿者:

miyuki.ono1228

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

「社員と肺魚」への2件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS: ab1b90139a6887a13c551bf3323da1a9
    多くの人が無意識にこの縛りを受け入れて、麻痺していくのかね〜。
    まぁ、感じない人もいるだろうけど、私もなかなか厄介な一年でした。
    もっともっと、言葉にしていって、それ@@

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    わたしはその縛りには絶対に縛られません、というスタンスを崩さないつもりだよ。
    休む時は休むし、逆に残業も自分がしたいからするし。
    コペも言うように、私も仕事するのは好きだから。
    ただ周りの人が本当にあたたかいから少し辛いかな。。
    縛り、って締め付けられて痛いんだけど
    人によるものだから体温がこもっていて、皮膚にその熱気が染み込んで、逃げて行かない時があるの。
    そういう時は少し泣きたくなる。やさしい涙だけど。
    目が滲んでいるからかもしれないけど、大家族、ってそう悪くないなあと感じてしまうのです。
    でも、結局染まれないんだけどね。その繰り返しです。
    そして、そのもがきが嫌いじゃないのかもね。
    長々と失礼しました。。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です