DSC_0301

 

 

本を書いている。

どういうわけか運命の糸がわやくちゃに混線して、気づいたら3月中に8万字書かなければいけなくなった。

初めて本を書くのに、無茶である。

おかげでノルウェイのトロムソという街で、ホテルの一室に引きこもってひたすら原稿を書いている。

せっかくトリッピースのツアーに当選して、やって来たというのに。

 

でも、自分でやるって言ってしまったからにはやるしかない。

8万字の雨が空の上から降る準備をしてぶらぶら下がっており私はそれを全部受けきらなければいけない、そういう状態だ。

8万字の雨だれが天から落ちてくる。それを全部身体で受ける。びしょびしょである。かなり、動きづらい。身体が重い。しんどい。

でもどういうわけだかすごく嬉しいのだ。この時をずっと待っていたような気がする。やっと書ける、書いていいんだ、そう思ったとたん、嬉しさがふつふつと湧いて来て、皮膚を突き破って爆発しそうだ。

好きなだけ書いていい、ということがこんなにうれしいだなんて。

 

これまでは、念入りに仕込まないと、ちゃんとしたものが書けない、と思い込んでいた。

ノートに文字を書き溜めて、2週間くらい文字通り寝かせておく。その間に文章が発酵するのを待つ。発酵したら、見返す。読者にとって美味しいかどうか、この時点では分からない。美味しくなるように整えて、トッピングをする。いろいろなものを混ぜる。面白い比喩表現だったり、リズムだったり、事例だったり、キャッチーな言葉だったり。そうして整った文章になったと思ったら、それをまた、2~3日寝かせて、一番綺麗な形に整えたら、ブログに上げる。

「そんなに時間かけてるんですか!」と良く驚かれる。でも、自分が出せるもので一番いいものを出したいと思うから、そうやって時間をかけていた。

でも、8万字となるとそうはいかない。

滝のように書かなければいけない。滝のように書いて、しかも、面白い物を書かなければいけない。

呼吸を止めて一気に書き上げる。三味線奏者の葛西さんは、三味線はあまりに早く指先を動かして演奏するものだから、一曲の間の2分間ずっと呼吸が止まっていると言っていた。

そういう感じだ。書いているとそのうちハイになってすっごく横隔膜があがって、過呼吸になっている。トロムソにつく飛行機の中で書きまくっていたら、息が本当に止まっていて、頭がくらくらした。過呼吸だった。過呼吸になるくらいハイテンションで、でもそれだけだと、頭で浮いている感じの、ふわふわしたおぼつかない文章になっちまうから、あとでちょっと落ち着いた段階でもう一度見返して、ちょうど、てっぺんと足下が、空と大地とつながった文章にできればいい。

今までのは怖かったんだなと思う。自分の文章に自信が無いから、慎重に丁寧に書いていた。でも、私の人生の中で一番先立ち、行動を止めていた「失敗する事に対する怖さ」が、8万字にところてんのように押し出されて、どっかに行っちゃった。怖いけど、書くのが楽しい。

こんなに書くのが楽しいなら一生書いていたい。将来どんな貧乏になってもいいから、ずっと本だけを書き続けたい。

人生で、こんなに充実していると思ったこと、ない。

「小野さんの文章は面白くない」と言って来た友人の言葉をかなり長い間、ずっと気にしていたけど、それが今、コルクの栓のように、ぽん、と抜けた。

もうどんなふうに思われても、だれに批判されても、全員に面白くないって言われても、私は私の言葉で自分の思っていることを書きたい。


紹介 author-img 著者

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

コメントなし

コメントを残す