「2014年版・このボーイズラブ映画がやばい」暫定1位!韓国ヤクザ映画『新しき世界』の黒い熱量


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私は腐女子ではありません。

ええと、確かに中村明日美子先生や秀良子先生、雲田はるこ先生のBL漫画は新刊が出る度に即買いし舐め回すように堪能するほど敬愛&溺愛しておりますが、その程度のぬるいボーイズラブ好きで決して腐女子の諸先輩方に面向けできるほどの腐女子力は持ち合わせてはおりません。
ええ、確かに中学時代は夏冬そして春と足しげくビッグサイトに通いつめ、同人誌と称して周囲の友人らに自作の小冊子を配る等典型的な痛いオタを地で行っておりましたが(ちなみにジャンルは……遊戯王でした……。弁解はしません)、自意識の芽生えとともに自分と男子との色恋沙汰のほうへと興味の軸足が移り、自然と腐界からは足が遠のきました。
おかげで足を洗った今では、もう2度とリアルでも2次元においても男同士のかけ算に興じることなど無いはず…とすっかり油断しきっていたのですが、3週間前にとある映画をひとたび観て以来、数年間のブランクの長さにふらつきつつも、全速力で今、そちら側の世界に再び足をつっこもうとしています。引退したはずの腐女子ですらも全力でフィールドに突き落とす、そんな引力と魔力を持った映画、

その名は「新しき世界」。

私はすでにこの映画を毎週連続で3回観ています。最後に観た時、となりに座っていた美人のお姉さんは連れの女性2人に「もう4回目だ」と興奮気味に語っていました。連れの(一般人らしき)女性たちも明らかに昂り、うるんだ目と上気した頬…こんな例えはこの映画に対して失礼かもしれませんが…まるで上質な女性向けのAVを観た時のような、奇妙な充実感と興奮、欲望が子宮のあたりでずずと動かされるような、奇妙な情動…に満ち満ちた顔をしているのです。

そう、この映画の特徴は、20〜30代の女性のグループの観客が異様に多いこと。

血で血を洗う韓国マフィアの後継者争いを描いた、冷酷無比なバイオレンス映画であるにも関わらず、です。

なぜこの映画には女性客のハードリピーターが続出するのか?

それはこの映画が、韓国ヤクザモノという外皮に巧みにカモフラージュされた、しかし一枚めくれば熱く濃い男同士のかけ算の可能性が血液のごとくどろりと噴き出す「隠れボーイズラブ映画」だからに他なりません。そう、こちらのレビューで「ものすごいやおい」と評されている通り…。

 

犯罪組織「ゴールドムーン」に潜入操作中の警察官、イ・ジャソンは、会長の急死により突然の後継者争いに巻き込まれます。次期会長の座を狙うのは2人。ジャソンとは6年以上の付き合いであり、ジャソンが末端構成員として組織に潜り込んだ当初からツーカーで苦楽を共にして来た、兄貴分の韓国華僑のチョン・チョン。もう1人の後継者候補、イ・ジュング。その2人の骨肉の争いに、ジャソンの警察内での上司で「父」のような影響力を持つカン課長が介入し、ヤクザと警察、2つの非情な組織が双頭の蛇のごとく絡み合い、複雑に関係し合いながら物語は進みます。

前半は正直、あまりパッとしません。後半、物語のキーを握る人物たちの登場シーンも、地味に抑え気味に描かれます。貴乃花親方に似ているチョン・チョン、アリtoキリギリスの小さい方と形容されるイ・ジュング。小沢一郎となんとなくパーツがかぶるのはチャン・スギ理事。こちらのレビューで主人公ジャソンは「肌の綺麗な東野幸治」と評されていました。その通り、韓国ドラマにありがちないわゆる「美形」は一人も出てこない。「なんっか誰かに似てんな」そんな感想しか出てこない、地味めな男たちの会話劇で物語は進展します。萌え要素はゼロ。チョン・チョンにいたっては登場シーンのあまりに軽薄なチンピラぶりに、私は最初こう思いました。

「あー、こいつ、すぐ死ぬな」。

話はややこしい上に(初めて観た時、私は途中で寝ました)、登場人物たちの顔があまりに似すぎているため、誰が誰だか分かりません(囲碁の先生と奥さんを途中まで同一人物だと勘違いしていた人続出)。地味で暗いヤクザ映画。それが最初の印象でした。

しかし、しかしですよ!!!!!

物語中盤以降、この映画は大変貌を遂げるのです。

組織内の小競り合いだったはずのストーリーが、後半、一気の畳み掛けにより、ある一組のカップルコンビのある友情の物語にすべて回収されてしまう。地味なヤクザ映画から一変、「イイ顔」の男たちが乱舞する楽園へと…。まるで、前半の抑え目な演出は後半の大爆発のための前フリなのだと言わんばかりに。

 

気弱なジャソン、それに対し、いつも陽気で面倒見が良く、明るく励ますチョン・チョン。

どす黒いオーラと父の威厳でジャソンを支配するカン課長。

この映画の中で、ジャソンは揺れる存在です。忠誠を誓った組織を裏切るのか。義兄弟の絆を選択するのか。どちらに行ってもその選択は大事な誰かを裏切る事になる。

3角関係に苦悩するジャソンは、まるで2人の男キャラの間で揺れる少女マンガのヒロインです。気弱な東野幸治だったはずのジャソンが、さしずめキャンディ・キャンディ、もしくはエースを狙えの岡ひろみのように見えてくる。

同じく、明るく陽気なDQNだったはずのチョン・チョンが、主人公の重大な秘密を知り、彼との絆とヤクザの身分の間で引き裂かれ、葛藤する姿。その落差が、彼というキャラクターの魅力を際立たせます。

中盤、1番の盛り上がりを見せる倉庫でのシーン。あの場面でチョン・チョンは、ジャソンを試しているように見えます。

「仲間を助けるために、俺を殺すのか?今まで一緒に生死をかけて闘ってきた俺を?お前はどっちなんだ」

あのシーンでのチョン・チョンの過剰なまでの暴力は、信じてきたジャソンの裏切りに対する悲しみの噴出のように思えます。「今まで楽しくバカやってきたのは嘘だったのか?裏切らないで、行かないで、オレを一人にしないでくれよ、ブラザー…!」

組織にがんじがらめにされ、しぶい顔で後継者争いという「公」の問題に苦悶していた冷徹な男たちが、実は固いスーツの内側ではソレ以上に、信じていた相手との友情のゆらぎに苦しんでいる。それに萌えずして一体何に萌えろと言うのですか?!?!?!

クールな韓国マフィア映画だと思って観ていたら、後半突然始まる急激なBL展開。「ええっ、この映画実はそういう話だったの…!」という意外性。それはまるで、平坦な道を走ると思い乗り込んだトロッコ列車が、実は急降下するジェットコースターだったかのような衝撃です。その不意打ちでかかる巨大なマイナスのGに、自分でも忘れていた腐女子脳が、ガツンと揺さぶられてしまう。

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この映画が女性を徹底的に排除しているのは、主人公のジャソンこそが真のヒロインであるという監督からのメッセージに他なりません。

この映画の一番の見所はジャソンの変身シーンです。

運命に翻弄され、ええっ、あたしどうなっちゃうの、とオロオロするだけだったヒロインが最後、哀しみから立ち上がり、スーツ姿の怪人の群れを相手に、愛のために闘いはじめる。東野顔のイ・ジャソンは、韓国ノワール版・月野うさぎであり、鹿目まどかであり、プリンセス・チュチュである。

こんなにときめく話がありましょうか!!!!!!

しかし少女マンガと違ってこの映画では最後、誰も幸せになりません。残ったのは孤独な勝者です。

勝者はそっと自分の秘密を燃やします。まるで、この秘密だけが彼と自分をつなぐ、たった一つの絆であり、それは永遠に二人だけのものだと言わんばかりに。公私も、運命も、存在意義すらも、組織に支配された男たちにとって、あの輝かしい日々に生まれた友愛こそが、たった一つのサンクチュアリであり、命を賭すべき価値あるものでした。しかしそれを守るためには、彼は引き返せない覚悟をせねばならなかったのです。一生独りで生きるという覚悟を。小者たちが組織の覇権争いに明け暮れている間に、王者の孤独な魂は、真の伴侶とともにはるかなる高みへと昇って行ってしまったのです。ひっそりと、誰にも知られずに…。

最初、あんなにのっぺりとした地味顔だった男たちは、終盤、美しく豹変します。苦悩と葛藤と怒りにもまれ、絶望し、覚悟を決め、全てを飲み込むころには、それらすべてが深いホリとなって顔に刻まれ、仏師が魂を込めて彫ったような凄みと神聖さを伴ってスクリーンから3D映画のようにせり出してくる。ぴくりと1ミリ顔筋を動かしただけなのに、彼らの爆発しそうな感情が、こちらに伝わってくる。ギリギリにまで抑えた中にある、壮絶な色気。その表情が、惚れ惚れするほど美しい。

クールな韓国ヤクザ映画らしい凄みのある演出と、BL的超展開。そのギャップに揺さぶられ、最後の最後、あのキメ打ちのシーンで容赦なく深みに突き落とす。彼らの魅力に捕らえられてしまったが最後、韓国BLというねばっこいセメント缶に閉じ込められ、腐の海に転げ落とされる。もう抵抗は不可です。これほど暴力的に(腐)女子を翻弄する映画を、私は他に知りません。監督はどんだけ業が深いんだ。

3週間前にこの映画を見て以来、手を変え品を変え知り合いの男友達をひっぱっては劇場に向かい、見終わった後にいかにこの映画が萌えるかということを口から泡を飛ばして力説するのが毎週末のルーティーンです。本来ノンケの男性にボーイズのラブを語るのは御法度ですが、この映画に関しては、彼らは苦笑しつつもおおむね同意してくれます。男も納得すなるBL度の高さ!(と思っていたら、おもっくそ宇多丸さんがボーイズラブいうてはりますね

 

萌え萌えいうとりますが、この映画の素晴らしいところは、何層にも脚本と演出に織り込まれた、キャラクターたちの人物描写です。見返せば見返すほど、映画の隅々に仕込まれた細やかな演出から、各キャラの渋みと旨味がしみ出してきて、深い味わいになってくる。ああ、あそこであんなこと言ってる!あんなことやっちゃってる!と。つまらない前半部分を見返すほど、後半部分の重みが増し、新たな萌えが供給される。萌えの反復運動。

この映画は確かに、私に新しき世界を見せてくれました。こんな嘆美な世界が韓国ノワールの奥底に広がっているというのなら、喜んでその漆黒に身を染めてしまいたい。

これは毒かもしれません。しかし、毒が薬になることもある。この映画を観て以来、イ・ジャソン役のが登場するCMをWeb上で永遠に見続けています。だって、笑顔が!映画の中では劇薬的な扱いの、彼のとろけるような笑顔がyou tubeでは見放題なんだもの!!

分かりやすいイケメンがいないため、萌えを受け取る側の練熟度が試されること、また激しい暴力映画であるという2重のハードルさえ超えられれば、そこには新たな萌えの境地が待っています。

さあ、みなさん、強くなれ、強くなって、その2つのハードルを超えてきてください。

それがお前の生きる道だ。プロジェクト名はもちろん“新世界”。

それでは(偉大なる腐女子の先輩に敬意を払いつつ)アンニョン。

 

追伸:韓国ではオンリーイベントまで開かれてるじゃないですか。なにそれ韓国ってBLのブルーオーシャンなのちょっとコリアンエアのチケット買ってくるわ

参考:

「新しき世界」無い袖はノースリーブ


投稿者:

miyuki.ono1228

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。

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