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カミーノの楽しみの1つが、バル(Bar)。

夜は安酒場、昼はレストラン、
スナック菓子から水、絆創膏までなんでも揃う、コンビニ的な存在でもある。

朝はクロワッサンにカフェ・コン・レチェ(スペイン版カフェオレ)、昼は巨大サンドイッチ「ボカディージョ」が定番メニュー。

村に着くたびバルに立ち寄り、おしゃべりしながら休憩するのが巡礼者たちの社交だ。

 

この日、バルで休憩中、カナダ人のカップルと出会った。

大学教授のナタリーは67歳。カナダ中西部のサスカチュワン地方の小都市で、6人とルームシェア暮らし。

同い歳のパートナーのティムとは20年近い付き合いで、帰国後は共に環境活動に関わっていく予定だそうだ。

ナタリーに聞かれた。
「The way of freedom or the way of security, which is yours?」
(安定と自由、どっちがあなたの道?)」

即答した。
「もちろん、The way of freedom!!」

するとナタリーは極上の笑顔でこう返した。

「当然、私も同じよ!」

自由の道、と即答できたのは、私がまだ21歳で、きっと、結婚も仕事も経験していないからだ。
しかし、その3倍もの年月の間に、数々の決断を下し、困難を乗り越えてきたであろうナタリーが、その歳になってなお、迷わずはっきりとそう答えられることに驚く。

「自由の道から安全な道へのバイパスはないの?」と聞いたら、

「あるわよ、結婚という道が。でも私にその選択肢は無いわね。きっと、一生!!」

そう言ってナタリーはほがらかに笑う。

私は67歳を迎えたとき、はたしてこんな風に生きていられるだろうか。

巡礼7日目① のコピー
真ん中がカナダ人大学教授のナタリー。

巡礼路で出会う人たちの生き方を見ていると、皆自分の道を迷わず突き進んでいるように感じる。色々な国で働いたり、ホスピタレイロ(巡礼宿の管理人)に志願したり、仕事を辞めて留学したり……。

みなそれぞれ、自分のものさしで自分の人生を測っている。
たった1つ、その人だけのものさしで。

この道に来る前、仲が良かった社会人の男の先輩に言われた言葉が、今も忘れられない。

「小野ちゃんはまだ学生だから分からないだろうけど、25歳くらいになると周りがどんどん結婚し始めて、焦って来るんだよ。俺の周りを見ててもね、どっちが幸せかっていうとやっぱりね、 嫁ぎ遅れて仕事しかないっていう女の人と比べたら、結婚して子ども持って家庭に入っているほうが、幸せだよ」

尊敬していた先輩の口から、そんな言葉が語られたことがショックだった。

私の母はシングルマザーだ。まるで、母のことを侮辱されたような気がした。

他人の幸せを勝手に自分の尺度で測ってしまう鈍さは暴力だ、と思った。

巡礼路で出会う人たちは、「女性は○歳までに結婚して子どもを生んだほうがいい!」というものさしからは少なくとも自由そうだ。
数々の葛藤を乗り越えてなお、迷わず「自由の道!」と答え、少女のように目を輝かせて活達と歩く67歳の老婦人ナタリーからは、社会通念に絞殺されそうな不安や怯えは一切、感じられない。

人の幸せを勝手に測ってああだこうだ言うのは簡単だ。

インターネットやテレビを開けば、そんな言葉で埋め尽くされている。

そういう人を見る度に思う。「お前はどうなんだよ」と。

そして自分にも思う。「お前はどうなんだよ」と。

 

他人のことはどうだっていい。

巡礼では、他人のペースに合わせる事こそ、良しとされない。それはきっと人生も同じだ。

67歳になっても、ナタリーみたいな笑顔で「私はこっち!」と迷わず言い続けられる人間でいたい。

どうやったら、そうで居られるんだろう。

日本から引きずってきた憂鬱に、少しだけ、日が射した気がした。

 
★旅する若者を応援するWebサイト「TABILABO」さんのインタビューでも、スペイン巡礼と世界一周について話しています。
巡礼に興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。
http://tabi-labo.com/tabi-athlete/onomiyuk/

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紹介 author-img 著者

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。