このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る

巡礼1日目①-2

ブルゴスを出発し、郊外へと続く、美しい並木道を歩いてしばらくすると、国道沿いの道に出た。

季節は秋、すでに収穫を終えた小麦畑の、乾いた茶色が道の両脇に果てしなく広がる。

時おりちらちらと目に入る紅い花が美しい。

 

2時間ほど歩くと、さっそく他の巡礼者たちの姿がちらほらと見え始めた。

皆一様に巨大なバックパックを背負い、寝袋を括りつけ、ボロボロの登山靴で歩いているので一目で見分けが付く。

追い抜き際、目が合うと笑顔で挨拶された。

「Buen Camino!(良い巡礼を!)」

これが、この道を歩く人々の合言葉だ。

 

このカミーノ・デ・サンティアゴの道には世界中から人が集まってくる。

スペイン、フランスなどヨーロッパからが大半だが、アメリカや中南米からわざわざやってくる人もいる。

最近では、大病を患ったドイツ人のコメディアンがこの道を歩いたおかげで病気が治ったと話題となり、ドイツと韓国では彼の書籍が大ヒットし、巡礼が一大ブームとなっているらしい。

 

歩く理由もまた人それぞれ。皆、敬虔なキリスト教徒で、さぞかし悲痛な面持ちで歩いているのだろうと思いきや、近年はもっぱらレジャー化し、自分探し、ギャップイヤー、失業中のひまつぶし、小学生の修学旅行、リタイヤ後の人生を考えるため、美しいスペインの自然や食文化を楽しむため、スポーツ感覚で…と、人によってバラバラ。

中にはお金も仕事も無いため、巡礼路を幾度も往復しながら他の巡礼者からのほどこしだけで生きている強者もいる。

聖地とは言え、その懐に飛び込んでくるのは、決して巡礼者だけではない、ということだ。

 

このように、国籍も言語も歩く理由も年齢もバラバラなこの道で、

「ブエン・カミーノ!」というあいさつだけが、すべての巡礼者の共通項。

この言葉一つで、巡礼者と巡礼者は出会い、つながってゆく。

 

何組かの巡礼者たちを追い越した後、一組のカップルに出会った。

セザールとアンヌ。アンヌはフランス人だが、セザールはメキシコ人だ。

セザールがパリの大学に留学中アンヌに出会い、現在はパリとメキシコシティで遠距離恋愛中の二人。セザールは敬虔なキリスト教徒らしく、アンヌが来年メキシコに移住する前に、ぜひ一度は、と巡礼を決めたらしい。

巡礼の道は、地球の裏側に住む恋人たちをも結びつける。

巡礼3日目①
休憩中のアンヌ。「休む時はできるだけ靴を脱いだほうがいいわよ!」と教えてくれた。

 

16時半ごろ、次の村であるholloniros del caminoに到着。初日は足慣らしの意味もこめて、20kmに留めた。

石畳の小道沿いに家々が並ぶ、小さな小さな村だ。

一つしかないアルベルゲに到着し、巡礼者の証であるスタンプをクレデンシャルに押してもらう。

宿の外では巡礼者たちが、めいめいに道路に座り込み、一日の疲れを取っていた。

 

テレビもインターネットもない。携帯電話の電波も通じない。

するべきことは歩くこと、そして休むこと。それだけだ。

 

思考を遮るものがひとつもないこの場所で、巡礼者たちはひとりひとり、これまで自分が辿ってきた道、そして、これから歩いてゆく道について思いを馳せる。

大都会でのめまぐるしい生活の中で隠れていた思考が、だんだんと呼び覚まされる。自分の内面に深く潜る時間。

この道は、そんな空白の時間に満ちている。

 

日が落ちると、スペインの夜は急激に冷え込む。震えながらシャワーを浴びる。運悪く、水しか出なかった。仕方がない。もう少し大きな街ならいくつかグレードの高い巡礼宿もあるが、ここは小さな村なのだ。4ユーロで泊まれるだけでもありがたかった。

疲れた身体に斬りこむように、冷たい水が染み渡るが、それでも、日中の火照りを溜め込んだ肌には気持ちが良かった。

共同寝室のベッドのマットレスは硬かったが、身体を横たえると、初日の慣れなさに張り詰めていた緊張の糸がほどけ、ころがり落ちるように深い眠りについた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
スペインらしい、小さな家々が並ぶ村。数軒の店と宿しかない

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る

紹介 author-img 著者

小野美由紀(MiUKi_None)作家。1985年東京生まれ。